個人邸事例1・室内からの眺めと歩く楽しさを演出したW邸

かたくり工房の設計した全国のガーデンをご紹介します。今回ご紹介するのは、群馬県のW邸。身近な場所で四季を味わえるようにという施主さまからの希望で、家の建築時から建築家とコラボして設計したガーデンです。

私たち、かたくり工房の拠点は岐阜県ですが、こちらのW邸は群馬県にあります。かたくり工房では全国各地の庭設計をしており、W邸のお近くに私の設計した公園があり、それをとても気に入ってくださった施主さまからご自宅の庭の設計依頼のお話をいただきました。

施主さまは植物が大好きな方で、ご自宅の新築時に庭が存分に楽しめる暮らしを望まれていました。以前は苔が美しい日本庭園を作っていらっしゃり、盆栽もたくさん楽しまれていましたが、若夫婦の家族と同居することになり、3世代で楽しめる庭がご希望でした。また、長い距離を歩くのが難しい奥様のために、身近な場所で四季を味わえるようにという施主さまの思いやりもありました。

室内からの庭の眺め、庭の背景となる家。

しばしば庭は、家が建ったその後で依頼されることが多く、設計では苦労することも少なくありません。植物が十分に育つだけの日当たりが確保できなかったり、排気口、エアコンの室外機など頭を悩ませることが多いものですが、W邸では建築家とのコラボレーションで庭設計を進めることができたため、ビジュアルの面でも機能の面でも、家と庭を理想的な関係で作ることができました。

まず、日当たりが十分確保できる東南へ庭のエリアを確保し、その背景として家の外観が庭景色に調和するよう建築家の方がデザインしてくれました。そして、毎日ご家族が集まるダイニングルームから庭景色が最も美しく見えるよう、建築家は窓のサイズやデザインを、私は窓に切り取られる庭風景を、互いに入念に打ち合わせしながら設計を進めました。窓は特大サイズのはめ殺し窓で、中央に窓の桟が入らないので庭を一枚の絵のように見せることが可能です。こうした窓を「ピクチャーウィンドウ」と呼びますが、毎日何気なく目にする景色は、暮らす人の気持ちに少なからず影響を与え、家族関係にも大きく関係すると思います。日々変わりゆく庭の様子や、庭に来る小鳥や虫たちは、どんなときも家族に平和で穏やかな会話のネタを提供してくれます。

この窓からは春、庭一面に咲く何百球というスイセンの群落が眺められます。それが終わる頃には甘やかな芳香を振りまいて咲くロサ・バンクシアエ・ノルマリスが。ついでバラや宿根草、花木が次々に花開きます。秋には木々や木ノ実が色づき、それをついばみに来る鳥たちの姿も眺められます。この窓は移りゆく庭景色を生きた絵画のように映し出す、文字通りのピクチャーウィンドウです。

歩みを誘う庭の仕掛け

室内から眺めて美しいことはもちろん、できるだけ庭に出て歩いてみようという気持ちになってもらうことも設計の課題でした。というのも、この庭は長い距離を歩くのが難しい施主の奥様が、身近な場所で四季を味わえるようにという施主様の思いやりから依頼されたものでもあったからです。歩くのが難しいからといって歩かないでいると、どんどん人の機能は衰えてしまいます。リハビリのように、歩くことそのものが目的になるとシンドイものですが、結果的に「つい歩いてしまった」「歩けてしまった」となるようデザインしました。

ですから、あえて一箇所から庭の全てが一望できないようにしました。その先がどうなっているのか知りたい、見てみたいという「興味」は、人を動かす原動力になるからです。庭の中に張り巡らせた小道も、先に行ってみたいという興味を誘うよう緩やかなカーブをつけて、歩くスピードで風景が変化するよう植栽の色合いも考慮しました。

花木やバラは香りの強い花を選び、グラウンドカバーや敷石の間にはやはり香りの良いタイムなどのハーブを植えました。歩いたり、手入れのために足を踏み入れたりするたびに、足元から香りが立ち上ります。香りのある植物は、植物のそばに行く動機になるので、必ず入れるようにしています。私の設計では、全てのデザイン、植物のセレクト、植え方について、一つひとつにいちいち理由があります。

腰をかけて休むスペースも庭の随所に

小道の先や途中には、疲れたときに腰をかけられる場所を用意しています。入り口から家の玄関までのアプローチは風景に変化が生まれるよう緩やかな傾斜をつけ、道の左右には庭の土留めを兼ねた石積みの縁取りを設けました。この石積みの途中には半円形の凹みをつけ、腰をかけて休めるベンチとしました。

歩く楽しさを演出するとともに、屋外で過ごす開放感を味わえるように、庭には東屋も設けました。ここでお茶を飲んだり、読書をしたり、アウトドアリビングとして活躍しています。

ライフスタイルの変化を見越して

リビングの窓から見えるところには、藤棚付きの池も作りました。この池はお孫さんたちのプールとしても活躍するよう設計してあり、底を二重に作ってあります。お孫さんたちが小さいうちは水深が浅くなるように、大きくなったら上段の底を抜いてもう少し深めにできるようになっています。

3世代で楽しめる菜園花壇

庭の中にはレンガで囲った菜園も作りました。地面ではなく花壇状にして高さをあげることで、小さなお子さんたちは目の高さでイチゴやトマトなど、収穫物を発見しやすくなり、大人はしゃがまずに作業できます。膝をついて庭仕事をするというのは、年をとるとなかなか辛いものですが、このように地面レベルを上げる「レイスドベッド」という手法は有効です。ちょっと腰をかけることもでき、楽チンな菜園です。

大勢で集える芝生広場と趣味を充実させる小屋

3世代が暮らし、お客様も多いW邸。気候の穏やかな頃には家族やゲストをお招きして庭でバーベキューパーティーもできるよう、芝生の広場を作りました。ブルーの小屋は、施主さまが趣味の盆栽の手入れをしたり、陶芸を楽しまれたりする場所です。ここにはお手洗いも設けてあるので、庭で過ごしているときにはいちいち靴を脱がずにお手洗いにも行けます。

外観の美観を保つつるバラの仕立て

個人邸の庭はプライベートなものですが、庭は屋外の空間で不特定多数の人の目に触れるものなので、設計者はパブリックな面にも配慮しなければなりません。公道に面していたり、隣家と接する部分では、どんな植物を選びどんなふうに植えるかで、ご近所との関係性にも大きく関わってくることがあります。特に問題になるのは落ち葉。例えば、公道や隣家に枝をはみ出して大量の落ち葉を降らせるような樹木を植えるのは、近隣住民にとっても、家人にとってもストレスになります。

W邸では外壁をバラで彩りたいというご希望がありました。ただ、公道に面する外壁につるバラを誘引すると、5〜6月の花の頃は見事ですが、その後は枝がビューンと伸びて通行の邪魔になったり、棘で人をキズつけたりする恐れもあります。それに、冬の時期は葉の落ちた茶色い枝が、せっかく美しいレンガの壁を覆ってしまうことになり、もったいないなぁとも思いました。そこで、壁の上部にだけバラの花が縁取るように咲く仕立てを考えました。上の写真がそれですが、とてもすっきりしていますよね。

スカートの裾や袖口に取りつけたフリルを「ヘム」と言いますが、壁の縁をふわふわとバラの花が飾るこの仕立ては、ちょうどそんなロマンチックなイメージ。ですからこの仕立てを「ローズ・ヘム仕立て」と名付けました。ローズ・ヘム仕立ての詳しい方法は、ガーデニングアイデア集で紹介しています。

【施主さまのコメント】

「毎日、庭に少しずつ変化があって、食事をしながら会話が尽きません。どこか遠くへ出かけなくても、庭へ出れば何かしら発見があって、毎日新鮮に過ごすことができます。球根の芽が出たとか、蝶のサナギがあったとか、イチゴが赤くなったとか、同居する孫たちとも世代を超えて共通の話で盛り上がれるのは庭のおかげです。バラの季節には、毎年親戚や友人をお招きしています。そういうきっかけを作れることも含めて、庭には季節の楽しみがいっぱいありますね」

<造園>
かたくり工房/岐阜県可児郡御嵩町伏見747
TEL:0574-67-6633
お問い合わせ

<住宅>
マイスターハウス/群馬県高崎市上中居町337-2
TEL : 027-325-2400
https://www.meisterhouse.co.jp