個人邸施工例「広い庭をローメンテナンスで美しく保つペイビング術」

かたくり工房の設計した全国のガーデンをご紹介します。今回ご紹介するのは、家の改築に合わせた個人邸の庭リフォーム実例。広い庭での美しいペイビング使いと、ご家族の大切な思い出をデザインの一つにしたお庭です。

Before

住宅の建て替えとともに、庭のリフォームを依頼されました。敷地がとても広く、日々のメンテナンスが苦にならないように美しい庭を作ることが課題でした。そしてもう一つ、とても重要だったのは「出たくなる庭」にするということ。庭への興味を誘い、家人が庭で過ごす時間を、充実したものにするのが大切なテーマでした。

After

広い庭の場合、植栽する部分と、しない部分の配分がとても大事です。施主さまが庭にかけられる労力や私たちがメンテナンスに入れる頻度を考慮し、そのバランスを決めます。土が露呈している部分が多ければ、それだけ草取りや植栽の手入れが必要になりますが、地面の植栽面積が少なくても、どんな植物を選ぶかで緑の量感は豊かに見せることができます。例えばこの庭では、株立ちのケヤキなどの木々が緑の量感を出してくれます。木々の下は砂利を敷いたり、芝生を張ったりして土が露呈しないようにしています。

 

土が露呈している部分には必ず雑草が生えてきますから、「ペイビング」といい、排水を整えたうえで砂利を敷いたり、タイルを張ったりします。ペイビングの素材はレンガや石、タイル、砂利などいろいろあり、色も形も千差万別です。それらを組み合わせることで、単調でない美しい地面を作ることができます。

 

植栽エリアはデッキのすぐそばと垣根側、それからペイビングの中にも、緑の島が浮かぶようにところどころに設け瑞々しさを演出しています。写真はまだ植栽したばかりの頃で花壇の縁が見えていますが、このようにきっちりとエリアを分けることで、花壇部分のみ土壌改良し、効率よく植物を美しく育てることができます。1〜2年ほどで緑は充実し、花壇の縁もすっかり見えなくなり、より瑞々しい印象になります。エリアを分けることで、繁茂しがちなハーブ類など、生育旺盛な植物の生育も適度に留めることができ、「手入れに追われる」という状態を避けることができます。

 

リフォームの場合、私は元々その庭や家にあったものの中から、生かせるものは生かして庭をデザインします。ここでもペイビングに使った石も、以前の庭から出てきたものを使っています。もちろん、材料費削減にもなりますし、家の歴史や思い出は、ときに家人の拠り所となるものです。

 

私は造園ポリシー(http://www.katakuri.co.jp/profile/)に「暮らしに寄り添う庭デザイン」を挙げています。人の人生や暮らしが千差万別なように、日々の生活の舞台となる庭のデザインにも、一つとして同じものはありません。ですから、いつも施主さまとのコミュニケーションから拾い上げた情報をもとに、一軒、一軒のご事情に沿って庭づくりをしていますが、この庭もご家族の大切な思い出をデザインの一つにしています。

 

実は、ご自宅には家から出られなくなってしまったお嬢さんが1人いらっしゃいました。とても仲良しだったお姉様が若くして亡くなられ、相次いでお父様が亡くなられたことが重なり、その悲しみが原因で外へ出られなくなってしまったのです。大切な人を失った喪失感は、どんなに美しい庭を作っても埋めることはできないかもしれません。でも、私は若い彼女が抱えた苦しい胸のうちを思いながら庭をデザインしました。

 

亡くなられたお姉様は旅行が大好きで、よく海外旅行に行かれていたそうです。遺品の中には、旅先のさまざまな国のコインがありました。それを庭に作ったベンチと、立水栓にも埋め込みました。ベンチに座って、大好きなお姉さんとゆっくり話す時間を持ってもらえたらと思ったからです。ベンチは池の周りをぐるりと囲むように作りました。せせらぎの音は心を落ち着ける効果があります。

 

庭が完成した後、毎月、庭の手入れにお邪魔するようになりました。そんなある日、施主さまが嬉しそうに話してくださいました。「今まで一歩も外へ出なかった娘が、夜にこっそり庭に出て、ベンチに座ってコインを指でなでているんです」と。それを伺って、私はこの庭づくりをさせていただいて、本当によかったなぁと思いました。以来、娘さんは徐々に外に出られるようになり、私たちが草取りをしている時に「お疲れ様です!」と明るく声をかけてくれたり、仕事に同伴した孫娘と遊んでくれたり、生き生きハツラツと変わっていかれる姿を見ながらとてもうれしく思っていました。そして、庭づくりから10年以上経ったある日、わざわざ私たちのお店「Garzzz」にきてくれたのです。そして、「今度、結婚することになりました」と、本当に幸せそうな笑顔を見せてくれました。

庭の一角に作ったバーベキュー炉。ガーデンライフをより充実させるアイテムです。

私たち造園の仕事は、幸せなことにこうしてお客様との長いお付き合いが続くこともあり、さまざまな人生を見せていただきます。どんな人の人生も、楽しいことばかりではありません。顔を上げられないような辛いときも、視線を落とした足元に花が咲いていたら、少し気持ちが明るくなるかもしれません。そんな思いで、私たちは花を植え、庭を作り続けています。